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名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)3751号 判決

原告

山口一郎

被告

菱自運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し金一七六万四三〇三円及び内金一六一万四三〇三円に対する昭和五九年六月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自原告に対し金三六〇万九七六〇円及び内金三〇〇万九七六〇円について、昭和五九年六月一五日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  (本件事故)原告は、昭和五九年六月一四日午後一一時三〇分頃、名古屋市港区空見町一番地先梅の水路線道路上を、普通乗用車(名古屋五四の一二九九番、以下原告車両という)を運転して走行中、左脇を併進していた被告天野誠運転の被告菱自運輸株式会社保有にかゝる大型トレーラー(名古屋一一け九一五〇 名古屋一一け二〇一番、以下被告車両という)が進路変更の合図をすることなく、いきなり右側に進路を変更しようとして原告車両左側々面に接触するようにして衝突した。

(二)  このため、原告は入院二九日、通院二ケ月の治療を要する頸部、背部、腰部の各挫傷を負い、且つ、右運転していた乗用車(原告車両)左側面破損の被害を蒙つた。

2  被告菱自運輸株式会社(以下「被告会社」という)は、被告車両の保有者として原告の蒙つた前記傷害に基づく後記損害額(自動車損害賠償保障法第三条)を、又、原告車両の破損に基づく後記損害額を、被告会社の従業員である被告天野誠がその業務執行中になした本件加害行為につき雇用主として民法第七一五条によりそれぞれ賠償すべき義務がある。

3  原告の本件事故により蒙つた損害額は左のとおりである。

(一) 治療費 金九二万二三五〇円

原告の蒙つた前記傷害により、水谷病院にて入院三一日、通院七九日を要する治療を受けて、その費用九二万二三五〇円を要した。

(二) 慰藉料 金六六万円

右傷害によつて原告の蒙つた精神的打撃の慰藉料として金六六万円が相当である。

(三) 休業補償費 金二八万五四〇〇円

右傷害による入院二九日、通院二ケ月の治療期間中、その勤務先である株式会社メンズシヨツプクリヤハウスを欠勤せざるを得ず、一ケ月金一四万二七〇〇円の割合による計金二八万五四〇〇円の給与相当分の損害を蒙つた。

(四) 車両修理代金 四四万九〇一〇円

原告車両は、左側面の破損等によりその修理代として金四四万九〇一〇円を要した。

(五) 車両の事故破損に伴う価額落ち金 六九万三〇〇〇円

原告車両は本件事故に伴う破損により、事故時の通常の価額金二七〇万円より金二〇〇万七〇〇〇円に下落し金六九万三〇〇〇円の損害を蒙つた。

(六) 弁護士費用 六〇万円

原告は本件訴訟を原告代理人に委任し、その着手金として金三〇万円を支払い、同額の成功報酬を約した。

4  よつて、原告は被告らに対し、本件事故に基づく損害賠償金三六〇万九七六〇円及び右内金(前記3(一)ないし(五)の合計)三〇〇万九七六〇円について本件事故の翌日である昭和五九年六月一五日から右完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因第1項中(一)の事実は認める。

同項(二)の事実中受傷の内容程度は否認し、その余は認める。

2  同第2項中被告会社が被告車両の保有者であり、被告天野の雇用主であり、本件事故が業務中の事故であることは認め、その余は否認する。

3  同第3項(一)ないし(三)は否認する。

同項(四)は認め、(五)は否認し、(六)は不知。

4  原告は本件事故により受傷してない。

本件事故は原告車両左側面に被告車両の右側面が接触したもので、追突ではなく、また原告車両の損傷は左フロントフエンダー等が少々破損している程度の軽微な事故である。

原告が受診を開始したのは本件事故発生から二か月半以上経過した昭和五九年八月二九日であり、その間体の異常を訴えることはなかつた。

第三証拠

本件記録の調書中の各書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因第1項(一)、第3項(四)の各事実、本件事故により原告車両の左側面が破損したこと、被告会社が被告車両の保有者であり、被告天野の雇用主であること、本件事故がその業務執行中に発生したことは当事管間に争いがない。

二  原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一ないし第一三号証、成立に争いがない甲第一八ないし第二一号証、乙第二号証、被告天野誠の尋問の結果によれば次の事実が認められる。

1  前記のとおり被告車両と接触衝突したところ、原告はブレーキをかけたが、原告車両の右側に中央分離帯があつたため、避けることができず、原告車両は、被告車両が左側車線に戻るまで約五〇メートル位引きずられてやつと止まつた。その際原告車両の左前輪のタイヤは押しつぶされる状態でパンクした。

本件事故直前の原・被告車両の走行速度はそれぞれ時速六五ないし七〇キロメートル位であつた。

被告車両は全長一五メートル、車幅二・五メートルの牽引車で、本件事故当時ジープを三台積んでいた。

2  原告は昭和四〇年一〇月七日生の男子であり、昭和五九年四月から株式会社メンズシヨツプ・クリヤハウスに勤務しており、本件事故直前の月収は一三万四九八一円であつた。

3  原告は、本件事故直後はめまいがし、しばらく屈んで黙つており、やがて気が動転した状態で、体は大丈夫である旨答えたが、本件事故の翌朝には、後頭部と首のあたりに打ち身があるような感じがするようになつた。

原告は、昭和五九年四月に前記勤務先に就職したばかりで正社員の資格がなかつたので休むと将来に影響すると考え我慢して出勤した。原告の勤務先の勤務終了時間は午後八時三〇分ころであつた。原告は、父が肝臓病と高血圧で病弱だつたので、休日には家業(室内装飾)を手伝つていた。昭和五九年八月中ごろ原告勤務先では夏のバーゲンセールとして店頭販売が行なわれたが、その準備期間中、原告は荷物の搬入等の仕事をしたが、そのころ、原告は後頭部や首に熱を帯びてくるようになり、また重い物を持つたりすると左右の肩が張つた状態になつた。

4  右バーゲンセール期間が終わり、夏季休暇がとれるようになつたので、原告は休暇をとり、昭和五九年八月二九日水谷病院に行き、同病院で頸部挫傷、背部挫傷、腰部挫傷の診断を受けた。原告は右傷害のため昭和五九年九月一日から同月二九日までの二九日間同病院において入院治療を受けた。

原告は同年一〇月一日から昭和六〇年二月一九日まで通院した(通院実日数昭和五九年一〇月に二五日、一一月に一九日、一二月に一七日、昭和六〇年一月に一〇日、二月に一九日)。

右水谷病院の医師水谷武彦は昭和五九年九月一二日原告の頸部挫傷、背部挫傷、腰部挫傷の疾患は交通事故によるものと考えられる旨の診断をしている。

三  以上認定の本件事故の態様、事故後の原告の症状、労働生活状況によれば、原告の受けた傷害による治療中本件事故と相当因果関係あるのは、昭和五九年八月二九日、一〇月一日から一一月一二日までの通院治療(実日数約三四日)及び同年九月一日から同月二九日までの入院治療の各六五パーセントであると認められる。

四  原告の損害

1  治療費

前記甲第二ないし第八号証によれば、昭和五九年八月二九日から同年一一月一二日までの治療費は、次の計算により金七六万〇三九〇円と認められる。

51万6480+6万8020+1万9190+12万3100+3万3600=76万0390(円)

右治療費のうち本件事故と相当因果関係があるのは、前記のとおり、その六五パーセントと認められるから、次の計算により金四九万四二五三円となる。

76万0390×0.65=49万4253(円)

2  入通院慰藉料

前記認定事実を総合すると、原告が本件事故により受けた傷害(入通院)についての慰藉料は金三六万円と認めるのが相当である。

3  休業損害

原告の本件事故直前の月収は前記のとおり一三万四九八一円であり、本件事故と相当因果関係ある休業期間は入院期間二九日、通院実日数約三四日の各六五パーセントと認められるから、本件事故と相当因果関係ある休業損害は次の計算により金一八万一〇四〇円となる。

(13万4981×29/30+13万4981×34/31)×0.65=(13万0481+14万8043)×0.65=27万8524×0.65=18万1040(円)

4  原告車両修理費

金四四万九〇一〇円(当事者間に争いがない。)

5  原告車両の本件事故破損に伴う評価損(格落ち損害)

原告本人尋問の結果及び成立に争いのない甲第一二号証によれば、原告は昭和五八年一一月二九日原告車両(フオルクスワーゲン)を購入し、昭和五九年四月ころから同車両を運転するようになつた。

以上認定の事実を総合すると、本件事故と相当因果関係ある原告車両の評価損(格落ち)は、修理費用の約三〇パーセントである金一三万円と認めるのが相当である。

6  以上1ないし5の各損害を合計すると

49万4253+36万+18万1040+44万9010+13万=161万4303(円)

となる。

7  弁護士費用

原告が本件事故による損害賠償請求のため弁護士を訴訟代理人に委任したことは裁判所に顕著な事実である。

本件事案の難易、請求認容額、その他一切の事情を総合すると、金一五万円が本件事故と相当因果関係ある弁護士費用と認められる。

8  右6、7の損害を合計すると

161万4303+15万=176万4303(円)

金一七六万四三〇三円となる。

五  以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は、被告らに対し各自本件事故による損害賠償金一七六万四三〇三円及び右内金一六一万四三〇三円に対する本件事故の翌日である昭和五九年六月一五日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神沢昌克)

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